2015年11月22日日曜日

東城百合子『家庭でできる自然療法』

群馬の奥利根、山の山の奥の湯の小屋温泉に、葉留日野山荘という廃校を利用した宿があった。今は、本当に残念ながら閉館している。シンプルな温泉場を持ち、木造の校舎をそのまま利用して山の幸を豊かに供してくれた宿は、またおそらく多くの登山家―日曜登山家から世界的的なクライマーまでに親しまれた宿であったことが行くたびに感じられた。営んでいる方々は言葉の少ない方々ではあったけれども、例えば以前に北アルプスでガイドしていただいた方とお知り合いであることがわかったり、独特な世界を感じさせられた。

初めて訪れたのは1月か2月の真冬、バスの終点で吹雪の中降り、一緒に降りた地元の方とおぼしきおじいさんが歩いていく後ろ姿がみるみるうちに吹雪の中にかすんでいく。後にこのおじいさんが宿主であることがわかるのだけれど、そのときの薄暗い吹雪の中の心細さを今でも覚えている。

かつての体育館を利用した食堂で出される山の幸が楽しみで、熊の肉もはじめてここで頂いた。印象に残っているのはメグスリノキなどの薬茶を何種類もヤカンに用意されていたこと。おちょこ一杯で強烈に苦い。

いつまでもあると思っているといつの間にか失われている。


東城百合子『家庭でできる自然療法』は身の周りにある自然の作物を使って、症例に応じた対処法・手当法を紹介している。冷え性、肩こり、切り傷などからガンなどの深刻な病気まで。コンニャクの温湿布、里芋パスター、スギナ茶、ヨモギ茶など、とにかくわかりやすくまとまっている。先人の知恵を通じて、植物の力を借り助けてもらう、というのは理に適っていると思う。こういったこともストイックになりすぎると目的が本末転倒になってしまうけれど、何より自分の身体のコントロール権は自分の采配次第、という姿勢に共感する。



 

谷川岳晩秋

2015年の秋は、雨の日も多くていつもの秋の安定した天候ではないようで、それでも日々冬へと近づいていることを、これは半ば願ってもいる。でないと町の年末に向けてのせわしなさという表面ばかりがカサカサしてしまうのはいかにも味気ない。

10月末の谷川岳。ロープウェイ終点の天神平から山頂まで既に木々も葉を落とし、ブナの実の抜け殻が頼りなげに揺れていた。今年の実りはどうだったろうか。ナッツ類で最もおいしいというブナの実(いったいどんな人がどう食べ比べたのかしら)。

登山道具を少しずつそろえて山に行き始めてから10年以上になるけれども、どの山も見せる表情が異なっていて、同じ山でもまた季節によって違うし、その彼らの勝手な領域にお邪魔させてもらう、という感覚が好きで山歩きが続いている。

前回の谷川岳は山頂付近荒天でまったく視界が悪く、双耳峰のもうひとつの耳には行けなかった。今回は穏やかな、はるかに続く山稜を眺めながら歩ける山行となった。ちょっと風花が舞っていたけれど、それはそれで山は冬をすぐそばまで迎えていることを知る機会に立ち会えたようなもの。


谷川岳2015 肩の小屋から万太郎山への道

下山時、少し急げば早めのバスに間に合うかも、どうしようかと友人と相談していると、ちょうど天狗の留まり場という岩から降りてきた人が、虹が出ていますよ、と親切にも教えてくれる。当然岩に登って確認。すると山ひだから虹が生えてきているのがわかった。見ていてもなかなか虹は消えなかった。
いま思えば、ポイント岩場、虹、急ぐか迷っていた時に教えてくれた人、というこの組み合わせが恩恵のようで、普段の日々の慌ただしい営みにおいてこうしたサインを見落としていないだろうか、と考えさせられている。

オキノ耳からトマノ耳の眺望