2013年7月31日水曜日

サン=テグジュペリ『人間の土地』

飛行機の本となると、何を置いてもサン=テグジュペリの『人間の土地』です。
初期の頃の飛行機というのは、なんて浪漫と詩情にあふれる手段だったのだろう、とうっとりします。また同時に、その初期の頃にサン=テグジュペリ(と仲間たち)が獲得した、視野と精神性を伝えてくれる本です。

”あのともしびの一つ一つは、見わたすかぎり一面の闇の大海原の中にも、なお人間の心という奇蹟が存在することを示していた。”

原著が出たのが1939年、第二次世界大戦が勃発した年です。大戦の終結前に消息を経ってしまったサン=テグジュペリ。でもその著作は長く読まれ続けています。
 
新潮文庫版では、宮崎駿監督によるエッセイもあり、飛行機の歴史に対する複雑な心情が書かれています。



走れヒコーキ

北米ノースウッドの自然をテーマにした写真を撮り続けている大竹英洋氏のスライドとトークショーに行ってきました。写真と映像、そして説明の構成がすばらしかったです。
秋の森、ブッシュの茂みがかさかさと揺れて何かが出てくるのを待つ映像は、静かな森の緊張を会場に再現していました。

さて、冬のノースウッドで、二人乗りの軽飛行機に乗った低空からの撮影の場面。タンデム飛行機が軽々と飛び立つ映像を目にして、鳥肌が立つような感覚を思い出しました。2012年の南東アラスカヘインズへの旅です。

アメリカ本土からの公共アクセスはフェリーか小型飛行機しかなく、フェリーは毎日就航ではないので日程上、小型飛行機(Sea Port Wings of Alaska)をインターネットから簡単に予約。当日、チェックインカウンターで体重は?と聞かれて初めてこれは何かおかしいぞ、と気づきました。

「しっかりロックしろよ!」とのパイロットの指令に慌ててセルフでドアのレバーを閉めれば、6人乗りの小型飛行機はすぐにも走り出し、がたがたと機内にいながらも地面を感じ、本当に軽々、これはかろがろ、と言いたいところ、ヒコーキは飛び立ちました。

ふらりと浮かびゆらゆらと調整を図りながら空を走っていくヒコーキの中にいて、届きそうで離れていく冬の針葉樹森と氷の景色を見つめていると、かつてアラスカに引き付けられてやまなかった人たちの思いがおしよせてきます。この、感覚はあり得ない。近づく氷河の青い縞は命のかけらもなく美しく、それでもどこかに何かをさがしてしまう。

まだ、これはこの旅のはじまりでしかなかったのですが。