2012年2月28日火曜日

ル・グウィン『西のはての年代記』

人生で、もし出会わなかったらあまりにもおしいものの一つはル・グウィンの「ゲド戦記」シリーズだと思っています。物語の喜びはどんな経験にもかえがたいことを教えてくれる本です。

「西のはての年代記」シリーズ『ギフト』『ヴォイス』『パワー』の3部作が完結したのはル・グウィン78歳のときです。

『ヴォイス』では詩というものが”うた”としていかに力を持ち、人々を動かすものであるか、考えさせられます。
それでもやはり最後の『パワー』にこの「西のはて」の要はあるのでしょう。主人公は奴隷の少年。いい主人に恵まれていると信じている、奴隷の少年です。その少年が森や山や沼地を旅していくのですが、少年が成長する冒険物語としてはあまりにもうまくいかないことばかりが続きます。

 ル・グウィンはどこまでも厳しい。ゲド戦記でもそうですが、ル・グウィンは人間の悪を徹底的に書く作家です。主人公がくたくたになる。大賢人ゲドでも王子でも奴隷でも。それでもふらふらと歩いていく、そんなときにそばにいるのがなんらかのハンデを負っている人たちであるということが、著者が読者に与えている問いかけなんだと思います。


2012年2月26日日曜日

アラスカの小屋

アラスカには森林局が管理する小屋があちこちにあります。
昨年2011年9月に利用したのは、南東アラスカのトンガス国立公園内にある小屋です。


















ログハウス小屋に泊まるのははじめてでしたが、やっぱり木はいいなあと思います。
丸太が積み重なっている壁が力強くやさしい。
薪ストーブも設置されていて悪戦苦闘する機会を思いがけず得ることができました。火をなだめて安定させて落ち着いた色にする過程が楽しかったです。

シーズンオフということもあり管理人以外に人に会うこともなく、本と森歩きで5日間が過ぎました。

さて、どこかの誰かのための旅メモ。
便利なことに、今は森林局のサイトから各小屋の予約ができます。
http://www.fs.fed.us/r10/tongass/cabins/cabinlist.shtml
アクセスの仕方(ほぼ飛行機か船)、注意事項(やはりクマ)など詳細が書かれています。
わたしが今回利用したStarrigavan Creek CabinはSitkaのフェリー発着所から歩いて30分くらいの場所なため、アクセスが容易なほうでした。
近くの泉で水は確保可能。トイレは100メートルくらい離れたところにあります。
食糧、寝袋類、明かりは持参。

クマの住む森であるという緊張感はアラスカならいつでもどこでも。


アラスカではフェリーの旅もおすすめです。またいずれ。



ハックルベリー

2012年2月25日土曜日

池澤夏樹『明るい旅情』

旅のサーカス団に生まれたわけでもなく、移動のない子どものころだったのに、なぜ今こんなに旅にときめくのか、もうごまかしようがなくなりました。機が熟してくると、いそいそと出かけていきます。

池澤夏樹『明るい旅情』(新潮文庫、1997年)

雑誌に掲載された紀行エッセイをまとめたもの。その足跡は世界に広がっていますが、”足”でその土地を旅した感が伝わってきます。著者の旅にひっぱられるのです。

何度も読み返している本ですが、今回気になったのは、イスタンブールの話。著者はよく知るギリシャからイスタンブールを旅します。都市への入り口をどうとるかで旅も違うとは気づかなかった。
東ローマ帝国を破りオスマン・トルコ帝国を築いた遊牧民について思いをはせるとか(移動性の遊牧民気質は在所に残っている)、縦横に広がる旅を味わうことができます。


2012年2月24日金曜日

角幡唯介『雪男は向こうからやって来た』

お山から帰ってくると、本が読みたくなります。
雪の大山のあと本屋をうろうろして、この本にしました。

角幡唯介『雪男は向こうからやって来た』(集英社、2011年)

著者のインタビューを登山雑誌「PEAKS」で以前みかけて、その中の本が積まれた写真の中に、『一万年の旅路 ネイティヴ・アメリカンの口承史』があるのを気づき、気になる探検家になっていました。
未踏のチベット・ツァンポー峡谷を探検するため新聞社を辞めようとしていた著者のもとに、ヒマラヤでの雪男捜索に加わらないかという声がかかり、話ははじまります。

雪男に興味はなかった著者が、雪男をめぐる古今東西の話を集め、雪男の姿や足跡を「見てしまった」現代の著名な登山家たちにインタビューを重ねるにつれて、”雪男ショック”なるものにひかれていく話です。
雪男を知ったら、その時自分はどう思うのか。どうなるのか。人生を変えてしまった先人たちのように、劇的なパラダイム転換が起きるのか。

なんだかその差は、意外に小さいような気がしました。


2012年2月21日火曜日

大山(鳥取県)

月明かりの中歩く雪山の話を聞いて夢ふくらませていましたが、自然はまた思いがけない様相を見せて人を魅了します。鳥取・大山の雪山行はそんな旅でした。
2012年2月 大山


















夜明け前にブナの樹林帯をヘッドランプの明かりを頼りに登っていきます。雪は深くアイゼンをつけた足運びにうまく慣れません。

樹林帯を抜けた急斜面ではガスで視界が悪い。目印のポールの1本1本が頼りです。気がつけば髪も霧氷でぱりぱりになっていました。

雪に埋もれている頂上小屋屋根を利用した洞穴の雪をかき出し、中でしばらくお茶を飲んで休んでいると、外が明るくなってきます。白いガスが北側から切れ流れ、見る間に最高点剣ガ峰(1729m)が姿を現しました。雲海に浮かぶ剣ガ峰への尾根道はまさに神の道を思わせる眺めでした。


2012年2月 大山





旅のはじまり

旅と本に共通するのは、一回限りの個人的な体験ということであり、
新たな世界を知るわくわく感を与えてくれ、
思い出す行為で幸福感を味わわせてくれるものです。

行きつ戻りつな旅の記憶 本の記憶のはじまりはじまり。

2011年秋 シアトル・タコマ空港 アラスカ航空